Hyper-NA EUV(極端紫外線)露光装置は、光で半導体基板(ウェハ)に回路模様を写す装置の構想です。現行のHigh-NA装置(開口数0.55)の後継候補として提案されています。主論文は、光学系が取り込める光の角度範囲を示す開口数(NA)を0.75以上へ高める構想を示しています。今回公表されたのは、量産装置の設計構想です。[4]

一部の微細配線層では、一回の露光だけでは必要な模様を形成しにくくなります。露光や加工を複数回に分ければ対応できる場合もありますが、工程や位置合わせの負担が増えます。Hyper-NAを考える入口は、この工程の負担と、より厳しくなる加工条件の両方です。[1, 3]

一回で描けない模様に、既存方式はどう対応するか

露光は、フォトマスク(回路模様の原版)を使い、ウェハ(半導体基板)上のレジスト(感光膜)へ模様を写す処理です。EUVは極端紫外線のことで、現在のEUV露光は波長13.5 nmの光を使います。[6]

複数回のパターン形成(パターニング)には、露光を分割する方式だけでなく、線の側面(側壁)の膜を基準に加工する自己整合方式もあります。SAQP(自己整合四重パターニング:側壁の膜を使い、線の密度を4倍にする方法)では、膜を付ける堆積と、材料を削るエッチングの工程が加わります。[1]

露光を分割する場合は、別々に作る模様の位置合わせも必要です。一方、自己整合方式は側壁の膜を利用するため、すべての方式を「露光ごとに位置ずれが累積する」とまとめるのは適切ではありません。[1, 2]

どの方式がよいかは層や形状によって異なります。既存方式にも、必要な細さを形成できる利点があります。Hyper-NAの解像能力が得られても、それだけを根拠に全層の工程を一律に置き換えられるかは判断できません。[3]

NAを上げると、何が細かくなるのか

NAは、光学系が受け入れる光の角度の広さを表す尺度です。マスクの細い模様を分離して結像するには、マスクの模様から生じる回折光(模様の影響で進行方向が広がった光)を取り込む必要があります。NAを大きくする方向は、より広い角度の回折光を取り込んで像を作ることにつながります。

imecの解説も、像を作るために取り込む回折光の数とNAの関係を説明しています。

NA 0.75は「光量が75%」や「処理能力が75%」という意味ではありません。光学系の数値と、露光に必要なエネルギーやウェハの処理枚数は別の指標です。

ASMLの解像度の説明では、次のRayleighの式が使われます。CDは配線幅などの重要な寸法で、ここでは光学系が描ける細さの目安です。λは波長、k₁は光学条件や加工条件に関係する係数です。[5]

CD = k₁ × λ / NA

波長とk₁を固定すると、NAを0.55から0.75へ上げた場合のCD比は、0.55 / 0.75 ≈ 0.733です。NA 0.55での計算値を基準に、約26.7%小さい寸法になります。これは本稿の条件を固定した説明計算であり、実測値ではありません。[4, 5]

例えば基準側の計算値が仮に10 nmなら、比較側は約7.3 nmです。同じ係数を置いたときの寸法変化を示しています。

実際の模様は、レジストへの形成とエッチングを経て作られます。材料や加工条件も関係するため、式だけでは加工後の寸法や歩留まり(作ったもののうち良品となる割合)は決まりません。[14]

比較対象NA波長数値の位置づけ
従来EUV:NXE0.3313.5 nmASML製品資料の解像度表記は13 nm[6]
High-NA:EXE0.5513.5 nmASML製品資料の解像度表記は8 nm[6]
Hyper-NA0.75以上波長13.5 nmのEUV露光を継続する構想後継装置の構想。上の約26.7%は製品仕様ではなく説明計算[4, 5]

表の13 nmや8 nmは、ASMLの製品資料で示された解像度の値です。すべての模様が同じ寸法で加工できるという意味ではありません。『2 nmノード』などの世代名と、トランジスタのゲート電極の長さを示すゲート長は別の指標です。[7, 16]

CDの比から、チップ全体の面積・トランジスタ数・性能・消費電力の改善率へ換算することもできません。設計や材料、別の製造工程を含む評価が必要です。

細く描けるほど、ピントの余裕は狭くなる

焦点深度は、像を鮮明に保てる高さ方向の範囲です。NAを上げると細い模様を描きやすくなる一方、この範囲は狭くなります。imecは、焦点深度がNAの二乗に従って縮む関係を説明しています。[11]

波長と係数を固定したモデルで比較すると、NA 0.55から0.75への変更で焦点深度の比は、0.55² / 0.75² ≈ 0.54です。寸法の計算値が約0.73倍になる一方、ピントを保てる範囲の計算値は約0.54倍になります。

この比も説明用の計算です。実際の焦点制御の許容値や、量産工程で使える範囲を測定した値ではありません。

IEEEの2024年ロードマップは、Hyper-NAの小さな焦点深度に伴い、レジストの薄膜化とウェハ表面の平らさ(平坦性)の要求が厳しくなると説明しています。ウェハ表面の高さが変わると、狭いピントの範囲に模様を収めるための条件も厳しくなります。

薄膜で像を作ることと、その像を下層へ正しく転写することは別の課題です。imecのHigh-NA研究では、レジスト、下地膜、マスク、エッチングを組み合わせた調整が示されています。Hyper-NAの工程全体は、光学上の解像度、材料、エッチングの条件を合わせて評価する必要があります。[12, 15]

既存基盤の利用は、どこまでの構想か

2026年10月の主論文の抄録は、NA 0.75の装置を現行High-NAとほぼ同程度の容積に収める方向を述べています。現行光源の再利用や、装置を製造する設備など、既存基盤の活用も設計の狙いです。[9]

マスクの吸収体には、屈折率の低いlow-n材料、または光を強く吸収するhigh-k材料を使えるという設計上の記述があります。全マスクや全レジスト材料が、そのまま使用できるという保証とは区別する必要があります。[9]

ここで確認したのは、出版社が登録した抄録と書誌情報です。本稿の調査では、主論文の本文を確認できていません。抄録の設計上の主張を、実機の測定結果や量産認定として扱っていません。

既存NA 0.55の露光装置(スキャナー)を改造できるかどうかも、この抄録からは確認できません。新装置の設計で既存基盤を利用することと、設置済み装置をアップグレードすることは分けて考える必要があります。[10]

実験の段階にも区別が必要です。2025年のローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)の研究では、EUVマスク観察用の顕微鏡SHARPが使われました。この研究では、ウェハ上での寸法に換算した5 nmのハーフピッチ(繰り返し模様の間隔の半分)像が示されました。水平の線と空隙を、対向する二方向からの照明で観察した結果です。[13]

これはマスク側の像の実験です。完成した露光スキャナーでウェハ上のレジストに模様を形成した結果や、量産歩留まりの実証とは区別します。[13]

工程の採用判断で、何を比べるか

実務では、最大解像度だけでなく、加工後に必要な形状と品質が得られるかが問題になります。例えばimecのHigh-NA研究は、金属配線の試験構造について画像検査と電気測定を組み合わせ、断線や、隣り合う配線がつながる欠陥を調べています。このHigh-NA研究は、Hyper-NAの量産実績を示す例ではありません。[17]

これらの資料を踏まえると、候補となる配線層ごとに、加工後の寸法とばらつき、欠陥、焦点・材料条件をそろえて比較する方法が考えられます。複数回の工程を減らせるかだけでなく、必要な露光量と処理時間も比較する項目です。

工程数が減っても、処理枚数や良品率が変われば採算は変わります。装置導入費、加工工程、検査、保守を含め、良品を作る費用と時間を評価する、という判断軸です。

時期について、Reutersは2026年10月8日に「約10年で準備できる可能性」を報じ、SemiWikiは10月10日に2036年頃と換算して伝えました。これは二次報道の開発見通しであり、確定した出荷年や顧客の量産導入年ではありません。[8]

主論文について確認できた抄録には、2036年という記載はありません。技術的な準備、初号機の出荷、顧客の量産導入は、それぞれ期限を分けて見る必要があります。

High-NAの導入動向はHigh-NA EUVの導入動向を扱う記事で扱っています。今回のHyper-NAは、その先の解像能力を得る構想と、加工条件・採算をどう確かめるかという話です。