何が起きたか:EU包装・包装廃棄物規則(PPWR)の成立と直接適用

欧州連合(EU)において、包装とその廃棄物を包括的に管理する新たな法体系が成立しました。欧州委員会は2022年11月30日に従来の包装・包装廃棄物指令(94/62/EC)を全面改正する提案を公表しました[1]。その後、欧州議会が2024年4月24日に規則案を採択し、EU理事会が2024年12月16日に正式採択したことで通常立法手続が完了しました[2]。

本規則「Regulation (EU) 2025/40」は2025年1月22日にEU官報へ掲載され、2025年2月11日に発効しました。原則として2026年8月12日から加盟国の国内法化を挟まず全加盟国へ直接適用されます[3]。

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ただし、2026年8月12日にすべての要件が一斉に完成するわけではありません。共通分別ラベルは2028年以降、包装最小化や再生プラスチック含有率、リサイクル設計などの主要要件は主に2030年以降に段階適用されます[4]。

旧指令94/62/ECは原則として2026年8月12日に廃止されます。しかし、旧材料識別規定は新規則12条6項に基づく実施法発効後30か月存続し、旧最小化要件の一部も2029年12月31日まで存続するなど経過措置が置かれています[5]。なお、各要件の適用日前にEU市場へ最初に供給され流通在庫となっている包装は、後から持続可能性や表示の要件へ適合させる必要はありません[6]。

後輩2026年8月に法律が変わっても、その日までにすべての包装を作り直す必要はないということですか。

先輩そうだね。要件ごとに適用時期が分かれているから、直ちに全基準への適合を迫られるわけではないよ。

後輩でも、経過措置があるからといって準備を後回しにできるわけでもないですよね。

先輩適合宣言の作成や保管のように2026年8月から始まる義務もあるから、時期に応じた確認が必要だね。

なぜ今か:急増する廃棄物と単一市場の制度分断への対策

EUが法改正に踏み切った背景には、包装廃棄物の急増があります。EUの包装廃棄物は2022年に8,340万トン、住民1人当たり186.5kgに達しました[7]。PPWR提案時点までの約10年間で包装廃棄物は20%超増加し、廃棄物発生量の伸びが実際のリサイクル量の伸びを上回っていました[8]。

無介入シナリオの場合、EUの包装廃棄物は2018年比で2030年までに19%、プラスチック包装廃棄物は最大46%増えると予測されていました[9]。欧州委員会の影響評価はリサイクル率を停滞と判定しており、2018年には包装廃棄物の15%が焼却、19%が埋立てに回っていました[10]。さらに10加盟国が2025年のリサイクル目標を達成できないリスクがあると判定されていました[11]。

包装はEUで使われるプラスチックの40%、紙の50%を消費する主要用途です[12]。そのため欧州グリーンディールや2020年の循環型経済行動計画は、過剰包装の抑制と2030年までの全包装リサイクル・再使用可能化を掲げていました[13, 14]。

加えて旧指令下では、包装ラベルやリサイクル性の定義、拡大生産者責任(EPR)料金の調整方法などが国ごとに異なり、制度が分断していました[15]。指令ではなく直接適用される規則が選ばれたのは、分断された国内要件を共通ルールへ置き換えて越境事業の法的確実性を高めるためです[16]。

したがってボードゲーム業界への影響も、同業界を狙い撃ちにしたものではなく、横断的な環境・市場統合ルールが波及した結果と解釈されています[17]。

ボードゲームの箱や資材は規制対象か:包装の定義と該当性

PPWRは材質や発生部門を問わず、すべての包装と包装廃棄物に適用されます。そのため紙や板紙、プラスチックフィルム、複合材、木製パレットなども対象になり得ます[18]。

通常のゲーム外箱は、商品を収容・保護・陳列して販売単位を構成する限り「販売包装」と判断される可能性が高いとされています[19]。PPWRの包装単位の定義には保管機能が含まれているため、購入後も箱にしまっておくという理由だけでは包装の範囲から外れません[20]。盤面として使うなど箱自体がゲームの本質的使用に不可欠な一体部分である場合は包装外となる余地がありますが、EUの一次資料にボードゲーム箱固有の確定分類はありません[19, 21]。

単独販売されるカードデッキのタック箱、ブースターパック、紙帯、内袋も販売包装に該当します。外箱内で使う袋や内装トレーも、包装機能を持つ限り包装部品として扱われる可能性が高いとされています[22]。

また、箱を包むシュリンクフィルムも規制対象の包装です。ただし、2030年に導入されるシュリンク包装の制限は複数商品を購入させるための使い捨てプラスチック集合包装が対象であり、個々のゲーム箱を保護するフィルムを一律禁止する規定ではありません[23]。

包装最小化義務について、ボードゲームや玩具を対象とする業種別免除はありません。第10条2項の免除は、2025年2月11日前から保護された一定の意匠・立体商標や地理的表示などに限られます[24]。

また消費者が同じ箱で保管し続けても、PPWR上の「再使用可能包装」には原則該当しません。別の商品を再充填・再装填して回転させる回収インセンティブ付きのシステムが存在して初めて該当する可能性が高いと解釈されています[25]。正式な再使用可能包装であっても、廃棄時にはリサイクル可能である必要があります[26]。

後輩ボードゲームの箱ってずっと家に置いて遊ぶものですが、それでも法律上はゴミになる包装扱いなんですか。

先輩保管に使われるとしても、製品そのものと一体不可欠でなければ販売包装と判断される可能性が高いね。

後輩長年大切に使うユーザー側の感覚と、法律上の定義にはズレがあるわけですね。

先輩その通りだね。独自の免除規定がない以上、原則として包装のルールに沿って対応を考える必要があるよ。

何が変わるか:段階的に導入される包装設計と表示の基準

事業者には、製品の包装設計や情報開示に関して複数の基準が段階的に課されます。

2026年8月12日以降、製造者は適用中の要件について包装タイプごとの技術文書とEU適合宣言を作成する必要があります。文書の保管期間は使い捨て包装が5年、再使用包装が10年です[27]。

材質構成を示すEU共通分別ラベルは2026年8月時点では必須ではなく、2028年8月12日または関連実施法発効から24か月後の遅い方から適用されます[28]。

販売包装であるゲーム本体箱には現時点で一律の数値空隙率上限はありません。ただし2028年2月12日から、製品保護などに必要な最小限まで空隙を減らす義務が生じます[29, 30]。内容物の破損・散逸防止や箱の機能、表示領域などは必要体積の根拠として考慮されますが、店頭で大きく見せることやマーケティングだけを理由に体積を増やすことは認められません[31, 32]。二重壁や偽底など見かけの容積だけを増やす構造は不適合となります[32]。これ以上削減できない理由は技術文書で証明しなければなりません[33]。欧州委員会は2032年2月12日までに玩具等の販売包装への数値空隙率導入を検討する予定です[34]。

2030年1月1日(または計算方法実施法発効3年後の遅い方)からは、通販等の集合包装・輸送包装・電子商取引包装の空隙率を50%以下にする必要があります[35, 36]。緩衝材を詰めた空間も空隙として算定されます[37]。なお、販売包装をそのまま配送する場合や再使用可能包装を使う場合は50%空隙率義務から免除されますが、包装最小化義務自体は免除されません[38]。

また2030年以降、非接触プラスチック包装には工場・年平均で再生材含有率35%が求められます(関連実施法発効3年後との遅い方)[39]。輸送包装には2030年から再使用包装40%の目標が課されますが、段ボール箱は明文で除外されています[40]。

リサイクル性能については、2030年以降に重量・体積を最小化し、リサイクル設計等級A(95%以上)、B(80%以上)、C(70%以上)を満たす必要があります。70%未満は市場投入できません[41, 42]。新素材による「革新的包装」には最長5年の猶予がありますが、演出やマーケティング目的の変更は対象外です[43]。

適用時期対象となる包装区分主な要件・基準
2026年8月12日全ての対象包装包装タイプ別の技術文書およびEU適合宣言の作成・保管(使い捨て5年、再使用10年)[27]
2028年2月12日販売包装(ゲーム本体箱など)空隙の最小化義務(数値上限なし、機能上の必要性を技術文書で立証)[29, 30, 33]
2028年8月12日以降※全ての対象包装EU共通分別ラベルの表示(関連実施法発効から24か月後との遅い方)[28]
2030年以降※集合・輸送・電子商取引包装空隙率50%以下(緩衝材も空隙扱い、実施法発効3年後との遅い方)[35, 36, 37]
2030年以降※プラスチック包装プラスチック部分の再生材含有率35%以上(実施法発効3年後との遅い方)[39]
2030年以降全ての対象包装リサイクル設計等級A〜C(70%以上)への適合、70%未満の禁止[41, 42]

※関連実施法の発効時期に連動する後発適用条件があります。

後輩ゲームの箱を大きくして豪華に見せる演出は、今後は難しくなるということですか。

先輩マーケティング目的だけでは追加の体積を正当化できず、偽底などの構造も認められないよ。

後輩駒やカードを保護するためにゆとりを持たせる設計も禁止されてしまうんですか。

先輩内容物の保護や保管機能に必要な空間なら考慮されるよ。ただし技術文書でその理由を証明する必要があるね。

誰に影響するか:国別EPR義務と直販・流通への実務インパクト

包装に関する拡大生産者責任(EPR)そのものはPPWRで新設されたものではなく、旧指令の2018年改正により全包装への制度設置が加盟国へ義務付けられていました[44]。

PPWR第44条は、生産者に対して包装を初めて供給する加盟国ごとの登録を求めています。統一様式による新しい国内登録簿の設置期限は関連実施法発効から18か月後であり、2026年8月12日に全加盟国の新登録簿が同時完成する仕組みではありません[45]。年間10トン未満の包装を供給する小規模生産者向けには簡易報告枠が用意されていますが、登録義務そのものは免除されません[46]。

EU域外生産者へのEPR代理人選任義務は各加盟国の判断に委ねられますが、加盟国間で消費者へ越境直販を行うEU域内生産者には、販売先国ごとの代理人選任義務が第45条3項上課されます[47]。欧州委員会はこの代理人義務を2035年まで停止する改正案を提出していますが、2026年8月29日時点で立法手続は継続中であり、停止は発効していません[48]。

ゲーム出版業界において、規制材の即時禁止よりも、少量の越境直販であっても販売先国ごとの登録や費用、報告、代理人選任対応が発生し得る行政上の手続き負担が課題として指摘されています[49]。事業者は、自社の販売形態に応じた各国の手続き要件を整理することが求められます。

後輩ルールがEU規則に一本化されたなら、1つの国で登録すればEU全域で販売できるようにならないんですか。

先輩法令の基準は共通化されるけれど、EPRの登録や報告は依然として販売先の加盟国ごとに行う仕組みだよ。

後輩越境ECやクラウドファンディングで多国籍に発送する場合、手続きの手間が分散してしまいそうですね。

先輩そうだね。代理人選任ルールの見直しも議論されているけれど、現行の規定を前提に各国の実務を確認する必要があるよ。