米加間で打ち出されたパルプ・紙製品への追加関税措置

米国とカナダの両国政府は、2025年から2026年にかけて特定の品目を対象とした関税措置を相次いで発表しました。米国政府は2025年2月1日にカナダ産品への追加25%関税(エネルギー資源は追加10%)を発表し、当初は2月4日適用予定としました[1]。その後、2月3日に施行を3月4日まで延期しています[2]。さらに米国政府は2025年3月6日、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に基づき無税輸入できるカナダ産品を追加関税の対象外と定め、3月7日から有効としました[3, 33]。

カナダ政府も対抗措置を講じました。カナダ政府は2025年3月4日、米国産品に25%の対抗関税を課す方針を発表しました[4]。この措置は機械木材パルプや溶解用化学木材パルプ、トイレットペーパー、ティッシュなどを対象に含み、カナダ国境サービス庁(CBSA)が25%のサーチャージとして執行しました[4, 5]。

事態は2026年に入り新たな局面を迎えました。米国政府は2026年7月20日、関税法338条に基づきカナダ産品への追加50%関税を発表しました[6]。関連するAnnex IIには、溶解用化学木材パルプやトイレット・フェイシャルティッシュ原紙、その他特定の紙製品の品目番号が掲載されました[6]。米国政府は同年8月18日に発効を3日間停止し、発効日時を8月22日午前0時1分に変更して適用を開始しました[7, 36]。

これに対し、カナダ財務省は2026年8月25日に対抗関税を発表しました[8]。米国の措置に対抗し、米国産のパルプや紙製品などに15%、25%、50%の関税を2026年9月8日から品目別に課す予定としています[8]。公表されたリストでは、溶解用化学木材パルプとティッシュ原紙が50%、トイレットペーパーとフェイシャルティッシュが25%、その他一部の紙製品が50%と設定されています[9, 10, 23, 47]。

国措置の概要・根拠主な対象品目追加税率状況・発効日
米国関税法338条に基づく追加関税(Annex II)[6]溶解用化学木材パルプ、トイレット・フェイシャルティッシュ原紙、一部紙製品[6]50%[6]2026年8月22日発効[7]
カナダ米国措置への対抗関税リスト[8, 9]溶解用化学木材パルプ、ティッシュ原紙[9, 10]50%[9, 10]2026年9月8日発効予定[8, 9]
カナダ米国措置への対抗関税リスト[8, 9]トイレットペーパー、フェイシャルティッシュ[9, 10]25%[9, 10]2026年9月8日発効予定[8, 9]

後輩カナダの2026年の対抗関税は、すでに店頭価格へ直接影響している段階なんですか?

先輩カナダの対抗関税は2026年9月8日発効予定だから、現時点ではまだ課されていないよ。

後輩発効前なんですね。発表された税率も品目ごとに細かく分かれている点に注意が必要ですね。

先輩その通りだね。すべての紙製品が一律同じ税率になるわけではない点も整理しておく必要があるよ。

なぜ今関税措置が焦点となっているのか:通商協定の適用範囲と制度設計

関税措置の影響を評価する上で、適用範囲の制度的な違いを把握することが不可欠です。2025年の米国による関税措置では、USMCAに基づく無税品が2025年3月7日以降に追加関税の対象外とされました[11, 33]。これにより、協定の原産地規則を満たす製品は関税負担を回避できる枠組みが存在していました。

一方、2026年に発動された米国の関税法338条(Section 338)に基づく関税は設計が異なります。この関税は、対象品目についてUSMCA原産品であるかどうかにかかわらず適用されます[11, 34]。そのため、従来の通商協定による無税枠組みの恩恵を受けられません。

米国のSection 338制度には、公共利益を理由に関税を停止または修正し、一定条件で製品を除外する大統領の法的権限が規定されています[35]。ただし、この除外規定は自動的に適用されるものではありません[35]。特別関税待遇や一時的な関税減免の対象品であっても、別途定めがない限り追加関税の対象となり得ます[37]。

米国政府は2026年8月に追加関税の発効を3日間停止しましたが、これは恒久的な撤回や除外措置ではありませんでした[36]。このように、協定原産品を問わず追加税率が課される制度設計が、関連産業における調達コストへの懸念を高める要因となっています。

後輩2025年の関税と2026年の関税では、何が一番大きく違うんでしょうか?

先輩2025年の措置はUSMCA原産品が対象外になったけれど、2026年の338条関税は原産地にかかわらず適用される点だね。

後輩協定による免税が使えないとなると、調達先を単に同協定内で探すだけでは回避しにくくなりますね。

先輩制度上の除外権限はあるけれど自動適用ではないから、企業側の負担構造が変わってくるんだ。

原材料から小売に至るコスト波及と企業の対応策

関税は輸入品が通関する時点で原価に加わります[25]。中間投入財に供給制約やコスト増が生じた場合、代替調達に伴う生産効率の低下を通じて最終商品の価格上昇を長引かせる可能性があります[14]。製紙メーカーや大手小売企業は、原材料費や調達コストの変動に対し多様な手段で対応を進めています。

ティッシュ製品大手のKimberly-Clarkは、セルロース繊維を主要原料としています[15]。同社はパルプ価格の上昇や再生繊維の供給制限が販売価格に反映できなければ利益を悪化させると説明しています[15]。2025年には北米を中心に追加関税関連費用約1億ドルを計上し、価格行動、生産性向上・コスト削減、調達・ヘッジの組み合わせで管理しています[16, 29]。

紙・パルプ・ティッシュを米国とカナダで生産するDomtarは、関税による販売価格や製造コストの上昇が製品競争力を低下させると説明しています[16]。また、カナダのCascadesは米国の2026年7月関税で一部ティッシュ輸出が対象になり得るとし、販売価格引き上げやコスト削減、生産性向上で影響を抑える方針を示しました[30]。KP TissueはSherbrooke拠点をハブとして購入紙への依存を減らし、生産性向上でマージンを守る計画です[31]。

日用品大手のP&Gは、FY2026見通しに関税コスト約10億ドルを織り込んでいます[27]。FY2025第4四半期にはマーケティングやオーバーヘッド費削減を含む生産性向上(240bps)と価格効果(50bps)で、関税コスト(40bps)などを部分的に相殺しました[27, 28]。

小売企業では、Costcoが仕入先との負担分担、前倒し・大量購入、販売地域に近い国からの調達、会員への価格転嫁を選択肢に挙げており、価格据え置き時は粗利が圧迫されると説明しています[18, 24]。Walmartは輸入依存カテゴリで価格が上昇し得るとし、関税想定に応じた機動的な発注数量調整を行っています[25, 26]。なお、米国GAOは製品容量縮小(シュリンクフレーション)が投入コスト上昇時の代替策になり得ると分析していますが、関税が直接の原因とは判定していません[32]。

後輩企業は関税コストをすべてそのまま小売価格に上乗せしているんですか?

先輩各社は価格転嫁だけでなく、生産性向上や調達見直し、仕入先との負担分担など複数の手段を組み合わせているよ。

後輩自社努力で吸収する選択肢もある一方で、利益率を圧迫するリスクとのトレードオフになるわけですね。

先輩その通りだね。価格調整の判断は需要や競合環境を見極めながら行われているよ。

消費者と関連事業者に生じうる影響と留意点

関税措置が小売価格へどの程度波及するかについては、経済研究による推計が存在します。米連邦準備制度(FRB)の研究によると、2025年の米国関税における小売価格への転嫁率は、実現関税率ベースで約0.15、輸入浸透度を加味した指標で約0.20と推計されています[12, 50]。同研究では低所得世帯の厚生負担が相対的に大きい点も示されています[12, 50]。

トイレットペーパーなどの必需品に関しては、使用量を大幅に減らしにくいため、価格転嫁が起きた場合に低所得世帯ほど可処分所得への影響が重くなり、安価なブランドへの買い替えが起きる可能性が指摘されています[13]。ただし、これは意見としての推計であり、すべての世帯で一律に購買行動が変化すると断定されたものではありません[13]。

紙製品のコスト変動は一般家庭だけでなく、特定の業務用衛生用品を使用する事業者にも波及し得ます[19]。衛生用品ディスペンサーなどの業務用製品は、医療機関、ホテルなどのホスピタリティ施設、飲食店などで幅広く使用されています[19]。

全米レストラン協会は、関税が輸入品の価格を押し上げ、飲食店に追加的なコスト圧力を与えると説明しています[20]。米国病院協会も関税が病院のコストを押し上げ、供給不足やサプライチェーン混乱を深刻化させて医療提供に影響し得ると警告しています[21]。これら事業者について、調達先切り替えや在庫積み増し、サービス価格への転嫁、利益率低下による吸収などの対応が考えられますが、実際の影響度合いは各事業者の調達構造によって異なります[22]。

後輩業務用衛生用品を使っている病院や飲食店への影響は、家庭用と同じように考えられますか?

先輩消耗品としてのコスト圧力は共通するけれど、事業者の場合はサービス提供や運営コスト全体に関わる問題になるね。

後輩業界団体からも懸念の声が出ていますが、具体的な影響の大きさは事業者の調達状況次第ということですね。

先輩そうだね。調達先の代替可能性や価格転嫁の可否によって受ける影響は分かれるよ。

両国政府による国内供給支援策と免除制度の現状

関税措置に伴う摩擦を緩和するため、米国およびカナダの両政府は国内供給の支援策や制度的な例外措置を設けています。米国政府は紙を含む木材製品の国内供給拡大に向け、連邦有地の木材生産拡大や許認可の迅速化を指示しました[38]。

米農務省(USDA)は2026年3月、8州の製材所などの新設・再開・拡張・改良に向けて1億1520万ドルの融資保証を発表し、米国木材生産の25%拡大を掲げました[39]。米国政府は輸入国との交渉を通じた関税調整も想定しています[40]。ただし、米国の支援対象は主に木材・製材など上流の加工施設であり、トイレットペーパー完成品の短期的な供給を直接増やす措置とは限りません[41]。また、米西部でのパルプ材供給減少や製材所残材への依存といった構造的要因もあり、原料制約が直ちに解消されるとは断定できません[49]。

一方、カナダ政府は国内や非米国から合理的に調達できない投入財に対し、個別審査による関税免除制度を設けています[42]。この免除は自動適用ではなく、説得力のある事情の立証や国内生産者との協議が必要で、対象もカナダ企業に限られます[43]。

カナダ政府は2026年8月、対抗関税とともに地域支援15億ドル、BDC融資枠5億ドル、経済多角化基金20億ドル、労働者支援35億ドルなど総額75億ドルの支援策を発表しました[44]。地域関税対応制度では国内サプライチェーン強化やリショアリング(生産国内回帰)が支援対象に含まれます[45]。森林セクター行動計画も進められていますが、正式な戦略策定は2026年末の予定であり、長期的な供給基盤の構築に向けた取り組みが続いています[46, 48]。

後輩両国ともに国内産業の支援策を出していますが、これで原料不足やコスト増はすぐに解決するんでしょうか?

先輩米国の融資保証は製材所など上流施設が中心だし、カナダの森林戦略も取りまとめは2026年末の予定なんだ。

後輩制度的な関税免除も個別の審査が必要ですから、短期間ですべての供給制約が解消されるわけではないんですね。

先輩その通りだね。支援策の効果が現れる時期と制度の適用条件を冷静に見守る必要があるよ。