Cloudflareが判断モデルClef・Clef-flashを公開

Cloudflareは2026年10月1日、判断モデル(決められた形式で判断結果と確率を返すモデル)Clefと軽量版Clef-flashを発表しました。[1] Cloudflareは、推論サービスのWorkers AIで両モデルの提供を始めました。推論は、学習済みモデルを動かして結果を得る処理です。

両モデルの重みは、モデル公開サイトHugging FaceのClefとClef-flashに公開されています。重みとは、モデルの学習結果を数値で表したデータです。[2]

公開時のライセンスはApache 2.0です。ClefとClef-flashのモデルカード(モデルの仕様や評価結果をまとめたページ)で確認しました。Apache 2.0は、ソフトウェアの利用・再配布条件を定めるライセンスです。

Cloudflareの評価では、CLINC150+OOS(意図分類の評価データセット)でClefが、When2Call(ツール呼び出し判断の評価セット)でJevが、それぞれ最高スコアを記録しました。[13, 25]比較する3モデルでは、43評価の報告レイテンシ(応答までの待ち時間)はClef-flashが最短でした。[14]

判断モデルとは、あらかじめ定めた形式の判断と確率を返すモデルです。以前のJev解説で紹介した製品カテゴリに、Cloudflareが競合モデルを加えた形です。[1, 2]

Cloudflareの説明では、ClefはQwen(基盤モデルの系列名)系列の基盤モデルを使います。基盤モデルは、大量のデータで事前学習し、幅広い用途に使えるモデルです。入力を読み込んだ後、スキーマ(出力形式を定めた仕様)の有効な選択肢を並列に採点し、確率を出します。文章を順番に生成してから構造化する方式とは異なる設計です。確率校正は、予測確率を実際の正答頻度に対応させるための調整です。同じ確率帯の判断群で、予測確率と正答率が一致するかを確認します。

同社は学習後の調整にBrier loss(予測確率と正解のずれを測る損失関数)を使うとしていますが、これだけで個別業務の校正性能や安全性が確認されたわけではありません。[3, 12]

後輩以前のJev解説と比べると、今回の変化はモデルの考え方より、選べる提供経路が増えたことですか?

先輩本稿では、提供経路の広がりを比較の軸にします。型付き判断(出力項目ごとに値の型を指定する判定)の仕組みはJevが示していました。Cloudflareは公開重みとWorkers AIを用意し、同社の基盤で使う道筋も示しています。

後輩公開されていれば、学習の全工程も再現できるのでしょうか?

先輩この公開モデルカード(モデルの仕様や評価結果をまとめたページ)と公開コードでは、重みとコードがApache 2.0ライセンスで公開されていることを確認できます。学習全工程の再現が目的なら、必要な訓練データと学習手順が揃うかは別に確認してください。

入力上限と導入経路を比べる

公開モデルカード(モデルの仕様や評価結果をまとめたページ)は、ClefとClef-flashの入力形式を説明しています。対応形式はテキスト、JSON(データを構造化して表す形式)、画像、動画です。Workers AIのHosted(Cloudflare側で実行する)REST APIは、HTTP(Webの通信方式)を使う呼び出し窓口です。RESTは、URLで示すデータや機能を、HTTPの標準操作で扱う設計様式です。URLは、インターネット上の場所を示す文字列です。

仕様で確認できる画像形式は、PNG・JPEG・WebPです。画像はリクエストに埋め込んで、最大4枚まで送れます。各画像は4 MiB・16メガピクセルまでです。文字列から復元した画像データの合計は8 MiB、リクエスト全体は13 MiBまでです。MiBは1,048,576バイトを表す単位です。リモートURLは受け付けません。

モデルカードの動画対応から、Hosted RESTにも動画を直接送れるとは言えません。[5, 8, 40, 41]

Jev 1.13はテキストのみを扱います。総リクエスト上限は64kトークン(モデルが文章を処理する単位)で、state(共通入力)と最長のquestion(質問)の合計は32kトークンです。ClefのHostedモデルは65,536トークンです。

そのため、Cloudflareの発表にある「Jevの32k」と並べて、Clefが単純に2倍のコンテキスト(モデルが一度に参照できる入力範囲)を持つとは整理できません。上限の数え方が異なるためです。

Jev現行モデル仕様、Clef Hosted仕様をそれぞれ確認しました。[35, 36, 39]

比較項目Clef / Clef-flashJev
入力公開モデルカードは動画にも言及。Hosted RESTは埋め込み画像に対応し、最大4枚。リモートURL不可テキストのみ
コンテキストHosted仕様は65,536トークンJev 1.13仕様は総リクエスト64k、stateと最長questionの合計32k
提供経路Apache 2.0の公開重み、Workers AITypeSafe AIのAPI(ソフトウェアの呼び出し窓口)
入力料金(米ドル)Clefは100万トークン当たり0.24ドル、Clef-flashは0.09ドルJevは100万トークン当たり0.042ドル。出力無料

本稿では、比較表のコンテキストと料金を両社の現行モデル仕様で確認しました。[35, 37, 39]

料金は掲載されたモデル別の入力単価です。Hosted ClefにはWorkers AIの共通料金体系も関係するため、アカウントのプランと適用条件を含めて見積もる必要があります。公開モデルを自前で動かす場合は、モデルファイルのほか計算資源と対応ソフトウェアが必要です。

Clefのモデルカードは、テスト環境として単一のH200を記載しています。H200はGPU(並列計算を得意とする演算装置)です。使用ソフトウェアはtorch(深層学習ライブラリ)2.11です。transformers(モデル実行用ライブラリ)は5.10.2です。[16, 6, 7]

Jevのalias(別名)は、公開版の更新で参照先が変わります。回答も変化し得るため、TypeSafeは、特定の版で閾値(判定の境界値)を調整した利用者に、version ID(版の識別子)の固定を勧めています。[38]

品質の順位は用途で変わる:速度も個別に比較する

F1は、適合率と再現率をまとめる指標です。両者をPとRとすると、値は 2PR / (P + R) で計算します。適合率は、該当と判定したもののうち正しかった割合です。再現率は、本当に該当するものを拾えた割合です。ここで扱う表はCloudflareによる評価であり、本稿の独立した再現測定ではありません。

Cloudflareの公式比較表では、用途によって品質の順位が変わります。

ツール呼び出しの判断を測るWhen2Callでは、Jevが80.97%で、Clefの72.37%、Clef-flashの65.58%を上回りました。[25]

一方、意図分類用の評価データセットCLINC150+OOSのmacro-F1(分類クラスごとのF1を平均した指標)では、Clefが97.43でした。Jevは89.27、Clef-flashは66.77でした。用途によって順位が逆転しており、軽量版の結果が常に大型版に近いとも限りません。自社の入力や誤りのコストに沿って比較する必要があります。[13]

レイテンシは、応答までの待ち時間です。p95は、観測の95%がその時間以内に収まる目安です。

指標(Cloudflare掲載評価)ClefClef-flashJev
CLINC150+OOS macro-F1(0〜100尺度)97.4366.7789.27
When2Call正解率72.37%65.58%80.97%
43評価のレイテンシ中央値209.3 ms38.8 ms524.1 ms
43評価のレイテンシp95238.6 ms122.4 ms536.0 ms

表はCloudflareが43評価で報告した値です。中央値とp95ではClef-flashが最短でした。計測に含む処理範囲や実行条件をすべて確認した独立再現ではなく、自社サービスの待ち時間を保証する値でもありません。

運用担当者は、通信、API処理、キュー待ち、アプリ側の前後処理を含めて計測してください。[14, 26, 27]

後輩評価の多くで勝っているモデルを選べば、問い合わせ対応でも有利ですか?

先輩その評価だけでは決められないね。意図分類ではClefが上回り、呼び出し判断ではJevが上回っています。評価セットが違えば結果も変わります。

後輩では、まず自社のデータで試すとして、速度は表の数字で見積もれますか?

先輩表の数字はベンダの評価時のレイテンシだよ。利用者が感じる待ち時間は、実際のAPI経路で測る必要があります。

型付き確率と確信度(confidence)の計算差

Hosted仕様は1〜64件の質問を受け付けます。Workers AIの例では、stateに問い合わせ内容を入れ、questionsで判定項目を指定します。例えば、緊急性は公式仕様のnoul型で尋ねます。noulは、真(true)である確率を返す型です。

担当チームの振り分けは、choice(選択肢からの判定)で尋ねます。影響度はscore(順序付き段階の評価)として尋ねます。質問ID(質問の識別子)ごとに回答が返ります。choiceは選択肢ごとの確率を返し、scoreは段階ごとの確率と、段階の番号を確率で重み付けした平均値を返します。[10, 9]

例えば、アプリ側で緊急性や担当チームの回答を使い、問い合わせの振り分けやエスカレーション(上位担当者への引き継ぎ)を行えます。確率が運用上の基準に届かない場合に追加確認へ回す、といった設計も可能です。ただし、基準値は製品の既定値ではありません。この設計では、運用担当者が代表的な実データを使い、誤承認、見逃し、人手確認の負担を測ります。その結果に基づき、業務ごとの基準値を決めます。

人への連絡や引継ぎもモデルではなくアプリ側で実装します。[11, 17]

確率はモデルの推定値です。confidenceは、モデルが回答に付ける確信度の指標です。算出方法はモデルによって異なります。その数値だけで、個別の判断が正しいとは保証できません。確率校正の研究では、予測確率と実際の正答頻度の一致を扱います。

例えば予測確率0.9の妥当性は、自社データで同じ確率帯の正答頻度を測って確かめます。[31, 32, 33]

Jevの現行仕様は、choiceのconfidenceを選択肢数で正規化して計算します。式は(pmax - 1/n) / (1 - 1/n)です。ここでnは選択肢数、pmaxは選択した項目の確率です。scoreでは、最有力段階からの距離も含めて確率分布を要約します。

Jevのnoulは、真である確率を返し、別のconfidenceは返しません。[22, 19]一方、Clef公開実装のsystemone_answerは、choiceでもscoreでも最大確率をconfidenceに使います。

noulはtrueの確率を返します。[20, 21]

仮に2択の最大確率が0.9なら、公開Clefのconfidenceは0.9です。Jevの公式式では0.8になります。同じJSON項目名でも、同じ閾値をそのまま移植できるとは限りません。公開Clefの式を、算出式が明示されていないHosted RESTの応答に当てはめることも避けてください。[20, 22, 23, 24]

以下は、Hosted仕様に沿った架空の入力例です。日本語品質を測定した結果ではありません。判定後の振り分けはアプリ側で実装します。[10, 11]

{
  "model": "clef",
  "state": "請求書の宛名を変更したいという問い合わせです。",
  "questions": {
    "team": {
      "type": "choice",
      "instructions": "どの担当へ振り分けるか選んでください。",
      "criteria": {
        "billing": "請求書と支払いの問い合わせ",
        "technical": "障害と設定の問い合わせ"
      }
    }
  }
}

次の値はAPIを実行した応答ではありません。架空の確率分布を公開Clefの整形関数に当てはめた説明例です。[20]

{
  "type": "choice",
  "choice": "billing",
  "confidence": 0.9,
  "probabilities": {"billing": 0.9, "technical": 0.1}
}

scoreは、順序付き段階の番号を確率で重み付けした期待値(確率を考慮した平均値)です。公開実装は0から始まる番号を使います。0・1・2の3段階なら、確率が0.5・0・0.5でも、0・1・0でも、期待値は1です。

前者は両極への迷い、後者は中央への集中であり、意味が異なります。期待値だけでなく全段階の確率も確認してください。小数のscoreを「顧客の何%」とは解釈できません。[21, 34]

公開重み・Hosted利用・調整支援の導入条件

公開モデルを試す際は、モデルカードの専用ローダ(モデルを読み込むプログラム)と推論手順を使ってください。Hugging Faceの汎用チャット用UI(操作画面)を、そのまま専用モデルの動作手順とは見なせません。Clefモデルカードには、専用のjoint_schema_model.pyを使う例があります。

APIのJSON構造が互換でも、確率の校正やconfidenceの定義、業務で使う閾値まで同等とは限りません。Jevのconfidence仕様も、業務ごとのデータで閾値を検証するよう案内しています。Clefへの移行や両者の比較では、実データで確率帯ごとの正答率と、閾値を適用した場合の誤りを再評価してください。[18]

Cloudflareは、独自データによるClefのfine-tuning(追加学習)を提供すると説明しています。まずはFDE(顧客の現場で導入を支援するエンジニア)が伴走する形です。顧客自身がデータ収集、調整、再デプロイ(モデルの再配置と公開)を行うセルフサービス基盤は将来計画です。調整によって特定領域の性能が上がる可能性がある一方、一般用途の性能を保てるとは限りません。[15, 4, 28]

モデルの確率だけで、利用承認、支払い、データ削除などの権限や破壊的操作を許可する設計は避けるべきです。運用者は、権限確認や決定的な業務ルール、人の承認を組み合わせてください。[30, 29]

運用者は、導入後も誤り、苦情、人による上書きなどを追跡し、閾値を見直してください。NIST(米国国立標準技術研究所)のAI RMF(AIリスク管理フレームワーク)Coreは、運用後の監視、利用者の意見や上書き、報告された問題の追跡を示しています。

本稿では、日本語の実業務における品質や校正を実測していません。日本語の業務で使う場合も、対象データで検証してください。Jevの現行仕様も、英語以外の品質を自分のコンテンツで試すよう案内しています。

本稿は2026年10月2日時点の公式資料に基づきます。